
店を覆っていた蔦を、切ることにした。
理由は単純だ。
伸びるのが早すぎて、
屋根まで届くようになり、
蜂も来るようになった。
年齢のことも考えると、
もう無理はできない。
切り始めると、
長年見慣れた景色が少しずつ変わっていく。
今日来た常連さんも、
店を見上げて言った。
「この雰囲気、好きだったんだけどな。」
その一言が、少し胸に残った。
私だって、この景色は好きだった。
春も夏も、
風に揺れる葉が店の表情を作ってくれていた。
でも、
店を続けるためには、
守ることより、手放すことを選ぶ日もある。
街の古い桜が切られ、
馴染みの景色が少しずつ変わっていくように、
この店もまた、
少しだけ姿を変えていく。
少し寂しいけれど、
それも時代の流れ。
蔦はなくなっても、
このカウンターで交わす会話だけは、
これからも変わらず育てていきたい。