
「この店には、どれくらいのお酒があるんですか?」
たまにそんな質問をいただく。
仮に50種類のお酒があるとしよう。
その中から3種類を選んでカクテルを作るだけでも、組み合わせは 19,600通りになる。
4種類なら23万通りを超え、5種類なら200万通り以上。
数字だけ見れば、一生かかっても試しきれない数だ。
でも、不思議なことに、私がカウンターで考えているのは、その19,600通りではない。
目の前のお客様が今日はどんな一日を過ごしてきたのか。
静かに飲みたい夜なのか。
少しだけ背中を押してほしい夜なのか。
誰かを思い出している夜なのか。
選ぶのは、お酒ではなく、その人に合う一杯。
組み合わせは無限にあっても、その夜、その人にとっての「正解」は、きっと一つしかない。
だから私は今日も、19,600通りの中から探しているわけではない。
目の前のお客様のための、たった一杯を探している。